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zoom RSS Night Of Autumn

<<   作成日時 : 2006/09/01 00:34   >>

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潮風をたっぷり吸った髪に手をあてると、指先に髪が絡みついてくる。大学の後輩の結婚式。クルージングの挙式と披露宴は、酔いやすい夫にとってはとても長い時間だったようで、それに加えて、普段は無口な彼が、後輩のためにスピーチをしなければいけないという大役もあってか、珈琲メーカーに珈琲が出来上がるまでを待たずに、一仕事を終えての疲れのためにソファの上に横になって、静かに寝息をたてていた。珈琲はどうするのだろう。私はひとりだけのマグカップに珈琲を注いだ。


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コーヒーテーブルの傍らのクッションに座ると、余所行きのパンプスでの疲れが、足先から火照ってくるのがわかる。近くの雑誌を手にとってパラパラとめくっていると、転寝から目覚めた彼が上体を起こし、頭を掻きながらソファに座りなおす。マグカップの置かれたテーブルを見て私を見ると、少し掠れた声で眠ってしまったことをヤレヤレと呟いた。私は、キッチンにまた行き、彼の分の珈琲を注いで、そしてソファテーブルに夫の熱いマグカップを置きながら、ソファの空いているところへ私も深く腰をおろした。彼の手はすぐにマグカップへと伸びた。
新涼の空が広がる結婚式だった。後輩のうれしそうな笑顔と、男前のタキシード姿。潮風にふくらんだ花嫁の長いベール。大きなカサブランカのブーケ・トス。幸せな瞬間が思い出されて、自然と顔がほころんだ。そんな私を不思議に思ったのか、彼はマグカップを口元に持ってきたままこちらを見た。「良い結婚式だったね。」と私が言うと、彼も同じように頷いた。10年と少し前、私は彼と結婚をした。式のプログラムの忙しさだけが、やたらに記憶に残っている私たちの結婚式だった。半年もかけて選びぬいたウェディングドレスも、トークベールも、式のうち1時間だけ着ただけで、いまだクローゼットの奥に眠っている。私は、ちらとクローゼットのある部屋の方を見た。彼の飲む珈琲の香りが立ち上る。「今日、スピーチ良かったよ。」と言うと、彼は苦笑いを見せて言う。「緊張して、何も覚えてない。」やっぱりね…、思ったとおり。それでも、彼のスピーチはゆっくりした言葉だったが、とても実感をもてたものだった。夫が普段、何を感じて日々を過ごしているのかを、そのスピーチから垣間見ることができた。嘘のつけない人柄に、改めて惹かれていたときのことを思う。
彼が無口な性分だということを肝に銘じているせいか、いつも人の集まる場所に二人で出席するときは、無口な彼のために先回りをして人と話をし、円滑に彼が話せるように段取りをつけるのが私の役目なのだと思っていた。今日の披露宴のときもそうだ、友人たち、先輩たち、後輩たちそして、後輩とその人間関係が集まる場所で、私が彼のためにできる本領を発揮しなければと思っていた。けれど、いつのまにか、彼は彼なりに話をし、初めての人とも穏やかに何かを話をしていた。結婚をし、父親になり、仕事に専念し、そういった時間が少し頼りなさそうな彼をいつの間にか大きくさせていたことに、初めて気づかされた日だった。そして、少し出番がなくなったことにへの寂しさが、心のどこかにぼんやりと浮かんでいた。
「うん、スピーチとっても良かったよ。」私はまた同じことを言った。今度は彼は照れ笑いをしながら、珈琲を飲んでいる。ソファに凭れながら、彼の横顔を見る。白髪もちらほらと、目じりには、笑い皺の跡が残されている。それは私も同じだ。私の視線に気がついてなのか、夫は私を見た。「疲れた?」相変わらずの、朴訥な話し方。私は大きく深呼吸をして、「うん、ちょっと疲れたかな。」と、彼から視線をそらす。私たちが過ごして来た時間、これからの時間、彼はどれくらいそのことを深く覚えていてくれるのだろう…。
「何か、甘いもの食べたいな。」彼は呟くようにしながらもこちらを見た。スピーチのことに緊張し、披露宴のせっかくのご馳走も、あまり手がつけられなかったのだ。「うーん、そうだ!昨日作っておいたアイスクリームがあるけど、それでいい?」その言葉に、彼はうれしそうな瞳を見せた。私は再び、キッチンへ。
彼が珈琲を飲むほかは、何も音がしない静かな夜。もう、夏も終わりなのかもしれない。

 夜の秋手持ちぶたさとなつてをり

 出会えた季語 夜の秋(季節・夏)
 Sweet Menu  Peach Melba Ice cream(アイスクリーム ピーチメルバ風)

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